「国民教育の師父」と謳われた森信三先生による代表的著作『修身教授録』。
その講義の中から「第28講―平常心是道」の冒頭部分をご紹介いたします。 ………………………………………… 第28講―平常心是道 …………………………………………
ちょっと申しておきますが、これからしだいに冬に入りますが、諸君はなるべく「寒い」という言葉を 使わないように――。 われわれ人間も、この「暑い」「寒い」ということを言わなくなったら、おそらくそれだけでも、 まず同じ職域内では、一流の人間になれると言ってよいでしょう。 つまり諸君らの場合も、もしこの「暑い」「寒い」という言葉を、徹底的に言わなくなったとしたら、 もうそれだけでも、小学校の教師としては、その点で、まず一流の人物と言えましょう。 私の申すことが、うそかほんとか、もしほんとうらしいと信じられたら、マア一つやってごらんなさい。 信じられない人は致し方ないですが、信じられる人は、生涯をかけてやってみることです。 もっとも諸君らにこの真理が本当に分かる頃には、私は多分生きてない方が多いでしょうが――。 とにかくマァ信じられる人は、生涯をかけてやってみることですね。 ところでこの「暑い」「寒い」ということを、徹底的に言わないという場合、一番困るのは、人と出会った際
先方から、「今日はお寒いですな」と言われた時でしょう。 諸君だったらそういう場合どうしますか。 そういう場合には、「なかなかきびしいですナ」と言ったらよいわけです。 人間も「暑い」「寒い」という言葉の出る間は、えらいと言っても、まだどこかに隙間がある と言ってよいでしょう。 ところで人間は、この「暑い」「寒い」と言わなくなったら、そしてそれを貫いて行ったとしたら、 やがては順逆を越える境地にも至ると言ってよいでしょう。 ここに私が順逆というのは、ていねいに言えば「順境逆境」ということです。
致知出版より